沢井さん

🎄 2016-06-03

 僕を五月病から救ってくれた「恩人」の1人は、間違いなく沢井さんと言っていいだろう。

 五月病といっても、僕が患ったのは一般的に言われる五月病、すなわち「新入生・新入社員が入学・入社によるギャップで5月に抑うつ状態になる精神病のようなもの」の方ではない。僕がかかった五月病は「アレルギー性気管支炎」という、非精神的な病気である。

 アレルギー性気管支炎とは、簡単に言えば「風邪の延長線上」である。もう少し詳しく言えば、「花粉やホコリ等にアレルギーを持っている人が、風邪と併発しやすい、気管支が荒れて咳がたくさん出る病気」のことである。無論、命に別状はない。入院の心配も(ほぼ)無い。先述したとおり、所詮は「風邪の延長線上」である。ではなぜ、その程度のことでこんなに騒いでいるかというと、僕は少し「大げさな」人間だからにすぎない。

 思い返せば、小学5年生のころ、松葉杖で登校したことがある。ご存じのとおり、小学生にとって松葉杖は「かっこいいアイテム」である。誰でも一躍ヒーローになれる、松葉杖とはそんな「魔法のステッキ」的な側面も持っている。ではなぜ松葉杖で登校したのか?足を複雑骨折しただとか、靭帯が切れただとか、そんな「松葉杖を使うに当たり妥当な」症状ではない。僕が松葉杖で登校した原因は、「左足の小指にヒビが入って、痛い」からだった。足の指にヒビが入った経験のある方なら分かると思うが、松葉杖を使うほどの怪我ではない。確かに歩くと少し痛いが、所詮は「少し痛い」程度である。ではなぜわざわざ松葉杖で登校したのか?それは僕が「大げさな」人間だからである。

 とはいえ、この「アレルギー性気管支炎」、咳は止まらないし、声は出ないし、呼吸するだけでも相当なエネルギーを要するくらいの、客観的に見てもなかなか厄介な病気なのである。実際にこの半月の間、僕はこの「アレルギー性気管支炎」に相当苦しめられている(いちいち「アレルギー性気管支炎」と正式名称で書いているのは、なんとなく正式名称で書くと「深刻そう」に見えるからである)。そしてそんな僕を窮地から救ってくれたのが、「沢井さん」なのである。

 沢井さんとは、人間ではない。人間ではないが、僕は沢井さんと呼んでいる。沢井さんとは、テープである。ただのテープではない。「気管支を拡げる作用のあるテープ」である。しかし、それがテープに「沢井さん」と名前を付ける理由になるとはいえない。僕もそれくらいは分かっている。僕がそのテープに「沢井さん」と名前を付けたのは、僕の頭がおかしくなったからではない。アレルギー性気管支炎に「頭がおかしくなる」という症状はない。沢井さんは自ら「沢井」と名乗ったのである。名乗ったといっても、喋ったわけではない。一般的にテープというものは喋らないからである。

経皮吸収型・気管支拡張剤 ツロブテロールテープ 「サワイ」

 僕がこのテープを沢井さんと呼んだのは、「サワイ」と書いてあったからである。しかしその情報だけでは、僕がわざわざ「沢井さん」と愛称を付けて呼ぶための理由として不十分だ。愛着が湧いたのは、この「サワイ」が予想以上の効能を持っていたからである。

 写真ではうまく伝えられないが、この「サワイ」は一見ただの、何の変哲もない四角いテープである。粘着部を観察しても、何か仕掛けがあるようには見えない。本当にただのテープなのだ。しかし確実に、この「サワイ」は他のどんな薬よりも効いている。確実に僕の気管支を拡げてくれているのだ。もし「サワイ」が存在しなければ、僕は呼吸もままならない、1人のか弱い病人である。今の僕にとって「サワイ」はただの薬以上の、「生命維持器」、いや、「体の一部」と言っていいくらいの重要な存在なのである。よって僕は、この「サワイ」に敬意を込め、「沢井さん」と愛称を付けた。

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